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絲山秋子■ 沖で待つ

20060729itiyamaokide

太っちゃんが低い声で、

「おまえさ、秘密ってある? 」と言いました。

「秘密?」

「家族とかさ、恋人とかにも言えないようなこと」

太っちゃんは秘密の話がしたくて、今日私を誘ったのだな、と思いました。けれど聞いてどうなるもんじゃなし、まあ話して気が楽になるんだったら聞いてやるか、くらいの気持ちでした。

「まあ、ないとは言えないけど…見られて困るものとか?」

「おまえもある?  そうかそうか」

太っちゃんは嬉しそうな顔をしました。〔略〕

太っちゃんはいつもみたいにはのってきませんでした。いっそう声をひそめて、

「あのさ、一番やばいのはHDDだと思うのさ」

と、言ったのです。

「HDD?」

「ハードディスク。パソコンの」

「ああ、それやばい。私もやだ」

「だろ。もし死んだらどうするよ」

「そっか、死んだら人に見られちゃうんだ」

■ 沖で待つ絲山秋子|文藝春秋|200602月|ISBN4163248501

★★

《キャッチ・コピー》

同期の太っちゃんが死んだ。約束を果たすべく、私は彼の部屋にしのびこむ―。仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く。第134回芥川賞受賞作。

memo

絲山は時代の風俗を切り取る作家である。

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