町田康■ 耳そぎ饅頭
ところが、である。運転手は自分に驚くべきことを言った、すなわち彼は、このあたりにうまいものはない、と断言したのである。〔略〕
地元の運転手が言っている以上、ほんとうにうまいものはないのだろう。ということは、と、なにを食っても同じということであって、ということは、どこでなにを食うのか迷う必要もなく、また、たまたま入った店がまずかったとしてもまったく後悔する必要はない、なんとなれば、なにを食ってもまずいのだから、
ということで、考えてみれば実に爽快なアドバイスであり、自分は向後、旅人に、このあたりでなにかうまいものはないか、と訊かれた場合、さきの運転手のごとくに、このあたりにうまいものはない、と断言しよう、と心に決めた。
そのことが、結句、餓鬼道地獄に陥った人民の迷妄を断ち、安穏な食事に人民大衆を導くと知ったからである。
■『耳そぎ饅頭』町田康|マガジンハウス|2000年03月|ISBN:4838712022
★★
《キャッチ・コピー》
偏屈にだけはなりたくない、と頑張って生きてきた。気づくと、もはやどうにもならぬ偏屈の谷底にいた。
今は、世の中の周縁部から舞い戻ったこの谷底で、偏屈もまた楽し、と呟いて薄く微笑んでいる。偏屈パンクの魂の記録。
《memo》
町田ぶし。独特の文体になじめないまま、読了。
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